設置ガイド - 良好な通信のために
無線の通信距離は様々な条件により左右されます。例えば、アンテナの高さ、障害物、壁や天井での電波の反射や吸収、周囲の電波のノイズなどの組み合わせで著しく変化します。よって、電波の伝播の仕組みを理解し設置することでより良い通信性能を得ることができます。
設置時の注意点
障害物
- アンテナ間に障害物が無い場合に最も通信距離が長くなります。
- アンテナ間に障害物がある場合は通信距離が短くなります。
特に鉄板や鉄筋コンクリート、電波シールドフィルムの貼られたガラスは電波を大きく妨げます。
アンテナの高さ
- アンテナの位置が十分に高い場合に通信距離が長くなります。
- アンテナの位置が地面に近い場合は通信距離が短くなります。
- 地面に直接置いた場合は通信距離が著しく短くなります。
- 地面に直接置いた場合は片側の端末の高さを上げると通信距離が改善されます。
- 通信相手同士に高低差があると通信距離が短くなります。
アンテナの周囲
- アンテナの周囲に金属物体があると性能が低下します。(電池も金属です。)
- 電子基板は樹脂ですので影響は少ないですが基板上の配線パターンは銅箔ですので、影響を受けます。
- アンテナを金属ケースに収めると通信距離が短くなります。
- プラスチックケースの影響は比較的少ないですが、内部の部品の影響を受けます。アンテナの設置位置に気をつけてください。
電波のノイズ
- 電波ノイズが少ない環境で通信距離が延びます。
- 電波ノイズが多い街中や自動車道路、工場等の近所では通信距離が短くなります。
アンテナの向き(偏波)
- 電波には波の振動方向(縦波、横波)があり、この方向を偏波と呼びます。送信側と受信側の偏波の向きが同一でない場合、感度が低くなり通信距離が短くなります。
アンテナ方向マーク
薄型アンテナにはアンテナ方向マーク が表示されています。これは偏波の向きを表しています。
通常はこの矢印を天地方向に向けて設置してください。 上下はどちらでも構いません。
指向性
- アンテナには感度の良い部分と悪い部分があり、これを指向性と言います。アンテナの種類により特性が異なります。
無指向性アンテナの特性
電波の方向
以下は無指向性アンテナから出る電波とアンテナの感度の概念図です。図に示すようにアンテナを真上から見た場合、円状に電波が放射されます。
電波の方向に対して垂直方向にも幅を持っています。最大性能の半分になる角度をビーム幅(半値角)と呼び約60度です。通信相手はこの範囲内に設置してください。電波方向の中心に設置した時に最大利得となります。
この特性をご理解の上、最適な向きと位置に設置してください。
絶対利得 2.14 dBiが理想的な半波長ダイポールアンテナのスペックです。これ以上の値になると指向性がでます。(半値角が狭くなる、または放射パターンが歪になる。)
以下のようにアンテナが設置された場合に最も通信条件が良くなります。
アンテナに高低差がある場合は通信条件が悪くなります。
電波の方向の軸を合わせれば通信条件は良くなります。
以下のように完全に上下に設置された場合は最も通信条件が悪くなります。
ただし、以下のように両方のアンテナを水平方向に設置すれば通信条件は良くなります。
以下のようにそれぞれのアンテナの向きが異なる場合は通信条件が悪くなります。
指向性アンテナ
指向性アンテナは電波を送受する向きが全方向ではなく一定方向に限定されています。そして、一定方向に感度が良くなっています。電波を飛ばす方向が特定している場合は干渉範囲を制限することと、一定方向への通信距離を伸ばすことが可能です。
無指向性アンテナが全周に電波を放射するのに対し、指向性アンテナは一定方向に電波を放射するアンテナです。無指向性アンテナより強い電波を単方向に放射します。受信感度も同様です。
電波の方向に対して水平方向と垂直方向にも幅を持っています。最大性能の半分になる角度をビーム幅(半値角)と呼びアンテナのスペックに表記されます。通信相手はこの範囲内に設置してください。電波方向の中心に設置した時に最大利得となります。
ビーム幅(半値角)が狭くなるほど利得は大きくなります。
パッチアンテナ
パッチアンテナは片側のみに感度を持ったアンテナです。
電波の方向
両偏波パッチアンテナ
電波の方向
通常のパッチアンテナは電波の波のゆれる方向(偏波)が垂直(縦波)または水平(横波)のどちらかですが両偏波アンテナは垂直と水平の両方にあります。受信感度も同様です。
通常のアンテナはお互いの偏波の向きを揃えないと感度が悪くなります。これは電波の波のゆれる向き(偏波)が異なってしまうためです。しかし、センサーネットワーク向けの用途ではセンサーの設置条件によってはアンテナの向きを揃えることが困難ですし、ウエアラブル端末のように移動している無線端末の場合はアンテナの方向は常に変化しています。 この問題を解決するためのアンテナです。両偏波パッチアンテナは相手側のアンテナの向きが垂直でも水平でも良好な感度で通信できるため、様々なモノとの通信や移動端末との通信に最適なアンテナです。
ヘンテナ
ヘンテナは以下の特徴がある指向性アンテナです。
- 特徴1 横向きに設置したときに縦波が出る。
→ アンテナの高さを低く抑えることができる。 - 特徴2 受信時は周囲に均一ではなく前後に強く放射され、側面には放射しない。受信時は前後の感度が優れ、側面の感度が低い。
→ 不要な方向に電波を放射しない。不要な方向からの電波を受信しない。
電波の方向
アンテナの高さと距離の関係
アンテナの高さと通信可能距離とは関係があります。電波の伝播で”見通し”という場合は、アンテナ間の直線上に障害物が無いだけではなく、フレネルゾーンが確保できているという意味になります。以下にフレネルゾーンを説明します。
フレネルゾーン
電波はアンテナ間を結んだ線に対して回転楕円体の形状(ラグビーボールのような形)で広がり伝播します。この空間をフレネルゾーンと呼びます。フレネルゾーンの一部にでも障害物があれば通信距離に影響します。
以下のグラフはアンテナ間の距離とフレネルゾーンの半径の関係です。このように距離が延びるとフレネル半径が長くなります。よって、長距離の通信をする場合はアンテナの高さを適切に上げる必要があります。
一般にフレネルゾーン半径の60%を確保できれば通信を良好に行えるといわれています。以下のグラフはフレネルゾーン半径の60%とアンテナ間の距離の関係を表したものです。
以上、お互いのアンテナが見えている状態でもフレネルゾーンが確保できていない場合は電波が減衰してしまい期待する通信距離が得られないということになります。1kmの通信をさせる場合は約3mの高さが必要になります。アンテナ高が不十分な場合は地面が障害物となり通信距離が短くなります。地面に直接置いた場合は通信距離が著しく短くなります。
人が無線端末を手に持った高さの場合は通常100m~200m程度の通信距離が期待されます。
障害物による減衰
電波強度は距離が2倍になると4分の1になります。そして、障害物があると通信距離は著しく短くなる性質を持っています。
例えば障害物としてコンクリートの壁があるとします。一般に厚さ10cmのコンクリートは10dB~15dB程度の減衰をさせます。よって、10cmのコンクリートを通過した後のリンクバジェットは85dB~90dB程度に下がります。この時点での通信可能距離は200m~300mになります。格子状に鉄筋が入ったコンクリート壁は更に大きく減衰させます。室内の石膏ボード製の間仕切りやドア、窓ガラス等は数dBの減衰があります。電磁波シールドフィルムが貼られているガラス窓は数十dB減衰させます。障害物を通過するたびにリンクバジェットは大きく減っていきます。大きな建物の裏側に通信する場合は通過する障害物が多くなるため、不利になります。
障害物での反射
障害物の材質により透過だけではなく反射することもあります。反射により通信距離が延びることもありますが、反射波が干渉して通信を妨害することもあります。